第5回国際ピアノ会議 参加レポート

 会場の1つとなったノヴィ・サド市タウンホール第5回国際ピアノ会議
参加レポート正会員 福田里香

 セルビアの代表的文教都市ノヴィ・サドにて開催された第5回国際ピアノ会議
5th World Piano Conference(2013年6月27日~7月3日、大会総裁Dr. Dorian Leljak )に招待参加し、レクチャーリサイタルをして参りました。この会議を主催したのは、40以上の国と地域に会員をもつ国際ピアノ指導者連盟(World Piano Teachers’ Association,以下WPTA)です。ピティナ始め、ヨーロッパ、アメリカ、アジア等のピアノ指導者団体とも協力関係にあり、世界各地に会員を擁するピアノ指導者、関係者の団体です。ピティナ正会員として20年以上お世話になっている私は、現在WPTA会員でもあり、本年の創設当初からアーリンク=アルゲリッチ財団メンバーであるWPTA国際ピアノコンクール審査員も務めていることから、同会議へ招待を受けることになりました。日本からの参加は今年が初めてとのことです。

在セルビア日本大使館公使参事官と大会パンフレットを手に

 今回の国際ピアノ会議に参加するにあたっては、在セルビア日本大使館関係者から多くのご配慮を頂きました。事前に、ノヴィ・サドで日本人の私がレクチャーリサイタルをする旨を、現地在住の日本人等に広報して下さっていた他、滞在中は、実りある現地訪問になるように、亀田和明公使参事官御夫妻が、細やかなサポートをして下さり、大変心強く有り難く思いました。

ドナウ川対岸から会場になったノヴィ・サド中心部を臨む(90年代NATOの空爆で破壊された橋が再建されています)

 さて、日本では情報の少ないセルビアのことを少しご紹介します。セルビアは、旧ユーゴスラビアから分かれた7つの国の1つです。バルカン半島の中央に位置する人口700万人強の内陸国で、日本人訪問者数は年間2,500から3,000人です。先月EUに加盟した隣国クロアチアが、年間15万人の日本人観光客を迎えていることからすると、セルビアは、まだまだ多くの日本人にとって未知の国かも知れません。その首都ベオグラードや文教都市ノヴィ・サドも、90年代にはNATOの空爆に晒されたと言いますが、今ではすっかり平穏で治安も良く、雄大なドナウ川とヨーロッパの古い街並を楽しめる街だと思いました。また、農産品が主要輸出品目とのことで、街と街の間には、穀倉地帯が広がり、牧畜、ワイン造り等も盛んです。

 会場となったノヴィ・サド市は、首都ベオグラードから80キロ離れた人口30万人の文教都市ですが、国際ピアノコンクールだけでも2つあり、加えて、EXITと言う大規模なロックフェスティバルが毎年開催されています。私が訪ねた時期も、市の中心部は夜遅くまで大変な賑わいで活気がありました。そしてメイン会場となったイシドール・バイッチ音楽学校は、1909年創立の伝統校で、現在、1,200名以上の小中学生が音楽を学んでいるそうです。こちらのコンサートホールにて今回、レクチャーリサイタルをする機会を頂きました。

左から国際ピアノ会議参加者、WPTA国際ピアノコンクール入賞者、音楽監督、私(福田里香)
左から国際ピアノ会議参加者、WPTA国際ピアノコンクール入賞者、音楽監督、私(福田里香)

 この国際ピアノ会議では、これまでに42カ国からのピアノ指導者、演奏家が、ピアノリサイタル、レクチャーリサイタル、レクチャー、のいずれかの形態で、ピアノ音楽に関する研究成果を披露して来たと言います。今年も、ヨーロッパはもちろん、北米、南米、アジアと世界20カ国の参加者が、1週間にわたり、朝10時から夜9時過ぎまで、日頃の研究成果を発表、交流する機会となりました。そして、今回は、WPTA国際ピアノコンクール入賞者のコンサートと入賞者への褒賞となるマスタークラスも開講されましたので、これからのピアノ界で活躍する若い世代との交流もあり、多彩なプログラムだったと思います。

国際ピアノ会議2013の参加証明書
国際ピアノ会議2013の参加証明書

 7月1日に私が行なったレクチャーリサイタルのレクチャー部分では、日本人とピアノの出会いから、普及、そして学習人口拡大までの道のりを、日本の地理的、歴史的背景を含め、英語で説明しました。それから、Power Pointで予め作成していた16枚の資料を大画面に映しながら、ピアノコンクール出場者が選んだ曲の傾向をテーマに話しました。リサイタル部分では、ブラームスの間奏曲op.118-6パガニーニ変奏曲op.35第一巻全曲を演奏。パガニーニ変奏曲は、15歳の時に初めて弾いてから、繰り返し、節目となる場面で取り上げて来ましたが、今回は、この難曲に対峙しても徒に戦うことなく、すんなり自己ベストが出せた、と言う思いです。聴衆は、国際ピアノ会議の参加者や地元市民はもちろん、80キロ離れたベオグラードからも聴きに来て下さった方もいらっしゃり、大変有り難く思いました。また、私のレクチャーリサイタルを聴きにいらした初対面の方から、セルビアの作曲家のピアノ作品の楽譜を頂いたのもサプライズで嬉しかったです。

 この国際会議は、共通言語は英語でしたが、英語に加えて、フランス語、ドイツ語、ロシア語等にも堪能な参加者が多く、その点でも大変刺激になりました。各国からの参加者の発表が終わると、それぞれのお得意の言語で更に突っ込んだ質問をする参加者の輪ができることも多々あり、英語の他に自由になる外国語があると、仲間に加わり易いと思いました。

ベオグラードにあるセルビア唯一と言う楽譜屋さん(夏期休業中でした)

 日本で、生のセルビア音楽に触れる機会は大変少ないですが、既に、両国間のクラシック音楽部門における民間交流推進のために、ボランティア団体「セルビア日本音楽交流推進の会」(角崎悦子代表)などが、在日セルビア大使館とも連携して活動をしているので、日本でも、セルビアの調べを聴く機会は、少しずつ拡大していくものと期待しています。そして今回は、セルビアの作曲家のピアノ作品の楽譜を、現地の音楽家達の協力により、少しまとまった形で入手できたので、日本での紹介の機会を探っています。

 まずは、第5回 国際ピアノ会議での研鑽や交流、セルビア音楽との出会い等、盛り沢山の収穫をもたらしてくれた夢のような10日間に感謝したいです。そして、早くも届いた来年度の国際ピアノ会議の招待状を前に、私の芸術の秋は始まりました。